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「時代小説や時代劇を通して、江戸時代の人々の暮らしや生き方に思いをはせるのも一興だろう。市井の人々の心の機微を丁寧にすくい上げた作品に、鬼籍に入った作家の旧作が再び脚光を浴びている」と、日本経済新聞が書いたのは今年の元旦号。
生誕100年の山本周五郎や藤沢周平などの作品にあらためてスポットライトが当てられ、清原康正『山本周五郎のことば』という新書が出たことは「掲示板」でもふれました。
で、梅雨明けが遅れ、雨に濡れる鍛冶橋通りを歩きながら、周五郎の「三年目」という作品を思い出しました。
京橋八丁堀の裏町、暮れかかる道の上は足の甲を越すほど雨水が溜まっていた。
桜橋の河岸(かし)っぷちに『川卯』という、ちょっと名の売れた小料理屋がある。
友吉と角太郎という大工職人の、お菊をめぐる友情物語。天明元年7月22日に大水で大川(隅田川)があふれる話が出てきますが、むろんその桜橋は平成通り沿いにある「桜橋ポンプ場」として名を残すだけ。足の甲を越すほど川があふれることももうありません。
昭和7年頃の「京橋区全図」を見るとまだ亀島川に至る桜川があって、下流から稲荷橋、八丁堀橋、中の橋、桜橋、新桜橋。その上流ではもう京橋川に合流するのですが、桜橋は旧新富町1丁目と旧西八丁堀4丁目をつなぐ橋です。
で余談ですが、平成7年秋に京橋図書館が複製したというこの地図を見ていて驚きました。発行所は本郷区元町1丁目3番地の内山模型製図社。なんと、ぼくが育った本郷元町の家のすぐそばなのですね。そう言えば、そんな会社があったような記憶がありますが、今は?
ちなみに「三年目」は昭和16年7月号に発表された短編というから、もう60年以上前の作品。
「戦前には少なかった作者の市井もののひとつ。すでにして下町の庶民を描くすぐれた素質が芽ばえつつあったことをよく示している点が注目されよう。作者の晩年の代表作である長編『さぶ』をほうふつさせる」と、全集の解説で文芸評論家の木村久邇典は記しています。
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