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第11回●『新川河岸迷い酒』を読む

 八丁堀は江戸の捕物帖のメッカ。さまざまな同心、与力、岡っ引きを主人公とする捕物帖の舞台として登場するばかりか、武家地と町地の隣り合うその土地柄、時代小説作品の多くに、あれやこれや八丁堀周辺の地名が登場します。
 千野隆司さんの霊岸島捕物控『新川河岸迷い酒』(2003年10月、学研刊)もそんな作品の一つです。

 事件は、八丁堀の東のはずれ、亀島川にかかる「高橋」(たかばし)あたりで起こった不可解な殺人事件から始まります。第1章は「酒乱の小便」、なんと殺しの後の死体に……が?
 登場人物は、霊岸島富島町の岡っ引き「五郎蔵」とその娘「お妙」、新川の酒問屋丹波屋の「お喜和」、深川永堀町の小料理屋初舟の「お紋」など、いずれも八丁堀や新川ゆかりの人間。また灘の「下り酒」の江戸への搬送という、酒飲みにとっては垂涎(すいぜん)の話がストーリーの重要な舞台です。

「その帰り道、南八丁堀の浅蜊河岸辺りから、背後に人のつけてくる気配を感じていた……」(第2章 寒風酒造り)と、新富篇第38回で登場する「あさり河岸」の名も出てきます。
 ところで新川は、八丁堀の隣町。川そのものは万治3年(1660)に河村瑞賢の開削と伝えられる運河で、廻船や輸送などに利用され、両岸ははじめ材木問屋、のち酒屋の問屋街として繁盛した、と中央区観光協会さんの「名所・旧跡案内」にあります。ここにはまた、「新川は下戸の建てたる蔵はなしいづれ上戸が目当てなりけれ」という狂歌が紹介されています。

 著者の千野隆司さんは1951年東京生まれ。90年に捕物帳作品「夜の道行」で第12回小説推理新人賞を受賞。選考委員から「第2の藤沢周平と称賛され注目を浴びた」と奥付の著者紹介にありました。ほかに『大川端ふたり舟』(学研)、『浜町河岸夕暮れ』(双葉文庫)、『札差市三郎の女房』(ハルキ文庫)などがあります。「第2のナントカ」はともかく、今後の活躍が期待される時代小説の書き手の一人と言っていいと思います。


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