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第44回●小説「築地川」に描かれる新富

 ぼくは若い頃、小説雑誌の編集に携わっていたことがあって、職業病と言うのか、新旧の作家の小説を乱読してきたのですが、それでも食わず嫌いがあって、1行すら目にしなかった作家も多い。
 芝木好子も、そんな一人。むろん芝木さんが芥川賞作家だということは頭にあったのですが、昭和16年に築地の青果市場の人間模様を描いた「青果の市」という作品で受賞したことなど全く知りませんでした。
 昭和16年受賞と言えば、ほぼ同期で戦後長らく第一線で活躍した作家は15年に直木賞を受賞した村上元三ぐらい。まさにカクカクたるキャリアの女流作家の作品を素通りしていたことになります。恥ずかしや。
 で、なぜ今になって芝木好子なのか。
 実はWeb新富座の記事を調べていてたまたま「築地川」という作品に出会い、愕然としたのですね。築地や新富の町のたたずまいが女流ならではの細やかな筆致で生き生きと描かれているのです。
「築地川」は『群像』の昭和42年6月号に一挙掲載された中編で、同年9月に講談社から単行本が出ました。新富町に住む、銀座の老舗出の老女とその孫娘萬里子たちの物語。小説の背景は高度成長によって変わり行く老舗、そして下町の情景です。少し引用してみます。

 ‥‥三吉橋から先は新富町である。上流といったのは方便で、築地川とよんだこの堀割川には水がない。  四年ほど前から高速道路になっていて、川底はコンクリートで固められ、自動車が走っている。‥‥  二人の家はこの橋から逸れた通りの、川を背にした場所にあって、橋からも見える。町場のことで家が立てこんで、その中の煮しめたように古い三階家である。大正の震災にも、戦災にも焼け残った下町なので、全体に黝(くろ)ずんで、三軒長屋のしもたやもあれば、銅(あか)で表てを張った問屋や、黒板塀の旅館もある。家と家が密着して支え合う古風な、滅びかけた、しかし趣きの残る町である。‥‥

 芝木さんは浅草・馬道の生まれで、実家は呉服商。1914(大正3)〜1991(平成3)。「青果の市」「隅田川暮色」はじめ下町の暮らしや伝統芸を描いた作品も多く、目下愛読中。築地・新富がらみでいずれまたご紹介するつもりです。乞う、ご期待。
(真之介)




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