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第3回●「ヤッチャ場」の女

 この春、かつて長年勤めていた会社が左前になって、新橋駅前の豪壮な社屋を引き払い芝方面へ移転しました。栄枯盛衰。「驕れる者久しからず」というわけではないのですが、一時期はグループ企業併せて約20社を数え、飛ぶ鳥を落とす勢いと業界の内外で喧伝されていただけに、一抹の寂しさがあります。
 もっとも、内部の者の目から見れば、ここ十数年来、経営は火の車で、華々しい事業展開の裏にはいつも懸命の金策があったと聞いており、今日の展開はむしろ遅すぎた決断と言わざるをえないのです。残るのはいずれも後輩たちですが、虚飾を捨て、スリムになった体で一日も早く甦ってほしいものです。
 その新橋時代に行きつけの飲み屋のK子ママが頑張り屋さんで、なんと昼間は築地のヤッチャ場の人。「養老の瀧」と同じく「二毛作」、つまり昼・夜ふたつの仕事をこなしているというわけです。
 製靴業の次は青果業。
 何だか語呂合わせめくのですが、築地と言えば、魚市場と並んで青果市場もまた都民の胃袋を預かる一大市場なのです。
 昼と言っても、われら怠惰な勤め人とは違い、青果市場の朝は早い。ママは市場に近い月島住まいで職住近接なのですが、店を閉める時間を考え合わせれば、せいぜい睡眠4時間。時にカウンターの内側で柱にもたれて居眠りしている姿を見かけるのも無理はありません。



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